ビタミンは、あえて記録しない

Bosott は食事の記録アプリですが、ビタミンとミネラルを出しません。

よくある記録アプリには、ビタミン A から亜鉛まで、十数種類の栄養素が並びます。それを見て「ちゃんとしている」と感じる人は多いと思います。わたしも最初はそうでした。

それでも、出さないと決めました。理由を 2 つ書きます。

1 日 36 回、1 年で 13,140 回

ふつうの記録アプリで 1 品を記録すると、手順はだいたい 4 つあります。品目を検索する。候補から選ぶ。量を入れる。確定する。

1 食が 3 品だとすると、1 食で 12 回。食事は 1 日 3 回なので、1 日に 36 回。1 年続けると、13,140 回になります。

一度きりなら、どんなに細かい入力でもできます。問題は、この手順を何万回も続ける生活を送りたいか、です。わたしは送りたくありません。食べるたびに画面に向かって品目を探し、量を選ぶ。そういう生活は楽しくないし、食の楽しみが記録に縛られるのは、順番が逆だと思っています。

記録に挫折した人は、意志が弱かったわけではないと思っています。何万回にも及ぶ手順に耐えられなかった、というごく自然なことが起きていただけです(食事記録が続かない、いちばんの理由)。

だから Bosott は、入力を「ぼそっと話す」だけに絞りました。「昼は生姜焼き定食」と言えば終わりです。品目を検索しない。量を選ばない。5 秒で終わる形に、尖らせました。目指しているのは、細かく測れることではなく、ずっと付き合っていけることです。

尖らせると、失うものが出ます。ビタミンは、その一つです。

4 手順 1 品に × 3 品 1 食に × 3 食 1 日に = 36 回 1 日に 365 日で 13,140 回

できなくはない。でも、嘘になる

「生姜焼き定食」という言葉から、ビタミンの量を推測することはできます。豚肉にはビタミン B1 が多い、キャベツにはビタミン C がある、といった知識を当てはめれば、数字は出ます。

でも、その数字が何に左右されるかを考えると、こうなります。

「生姜焼き定食」の一言には、このどれも入っていません。「焼き鳥屋さんでお腹いっぱい食べた」なら、なおさらです。ねぎまが何本で、レバーを食べたかどうかで、鉄もビタミン A も桁が変わります。

推測はできます。ただ、それはどんぶり勘定の数字を、それらしい桁で見せることです。画面に「ビタミン C 42 mg」と出れば、人はそれを信じます。信じてもらえる形で、信じるに足りない数字を出す。これは、使う人に嘘をつくことだと思いました。

だから、出しません。

見えているものと、見えていないもの

では、何を出すのか

出すのは、カロリーと、たんぱく質・脂質・炭水化物の 3 つです。

この 3 つも推定で、幅があります。それでもビタミンとは事情が違います。生姜焼き定食のカロリーは、ご飯の量と豚肉の量でおおむね決まり、小鉢が何であっても数十 kcal の差です。「だいたい 800 kcal 前後」という目安としては、話した言葉から出せる範囲にあります。

そして Bosott は、この目安を「正しい数字」として言い切ることもしません。合計だけを出すのではなく、どの料理を何 kcal と見たかを品目ごとに並べて、数字の出どころが分かるようにしています。違っていれば、その品目だけを直せます(作るときに、大切にした 2 つのこと)。

三つの丸

向いていない人

正直に書いておきます。ビタミンやミネラルの不足を数字で追いたい人には、Bosott は向いていません。栄養の指導を受けている人や、特定の栄養素を管理する必要がある人は、品目と量を細かく記録できる道具を使うほうがいいと思います。

Bosott が受け皿にしたいのは、そういう記録を一度やって、続かなかった人です。その人にとって大事なのは、今日の食べすぎを数字で知ることと、それを明日も続けられることの 2 つで、ビタミン C の何ミリグラムではないと考えました。

別の道具を手にする人

切り捨てたから、残った

ビタミンを出さないと決めたことで、画面は静かになりました。話して、数字が出て、終わり。そのあとに何かを入力する場面がありません。

失ったものは、たしかにあります。でも、そのぶん残ったのが「明日も続く」という一点です。

ぼそっと言って、終わり。それだけのアプリでいい、と決めた話でした。

静かな画面